妖精蒐集家令嬢と真夏の夜の箱庭

・妖精蒐集家令嬢と真夏の夜の箱庭

(妖精蒐集家令嬢とtu fui,ego eris.の黒いドレスの妖精、そして箱庭(ドーム)を凝縮したそのものです)
この物語そのものを表したものになります。
空っぽの箱庭(ドーム)に『今がずっと続けばいいな』と純粋に二人の約束を残したい、と最初は思っていたのです。
でも実際に残されたのは妖精ではなく令嬢の方でした。


・妖精蒐集家令嬢
妖精蒐集家令嬢の大きめの人形です。今回の個展では大きい子はこの一体だけです。髪の毛は紅茶染めで緑に染めたドレスを着ています。
ある人を蘇らせたい、もう一度会いたい、取り戻したいほど大切、どうしようもない、でも過ぎた時間はどうにもならないことを本当は知っている…
というような物語の類型を、人形の世界観に落とし込みました。
ただし順番が逆(本来なら妖精の方が人間の少女より長生きのはず)、というところがこの個展のテーマです。



・tu fui,ego eris.

『わたしはあなたであった。わたしはあなたになるだろう』という墓碑銘です。
この妖精が目を閉じたことからこの物語ははじまります。
どうして先に目を閉じたのか、はこの物語にとって重要ではありません。
そしてそれが人間でいうところの死なのか、それとも長い眠りなのか、も重要ではありません。
この妖精が目を閉じる前に、何を考えていたのか、想っていたのかは、もはや残された者たちの想像の選択なのです。
黒いアンティークレース、チュール、ビーズなどのドレスを着ています。


・hodie mifi,cras tibi.
『今日は私に、明日はあなたに』という墓碑銘です。
ピンクの色の妖精です。花やラインストーンが鏤められています。
物語の中では一番二人(令嬢と黒いドレスの妖精)に近しい、第三者、傍観者です。
この妖精はたとえば三人でいるのに 1+1=2 にしか見えなくても、それで完結しているように思われても、
そこに自分が入っていないことを寂しいとか哀しいと思うことはないのです。
誰かが眠っていることも目覚めていることも、人間の少女が祖母から孫に変わっていっても、それほど大差はないのです。
だからこそ誰よりも近くに存在している妖精であり、ゆえに彼女は令嬢に蒐集されてはいないのです。

以上の三体(令嬢、黒いドレスの妖精、ピンクのドレスの妖精)が、個展用DMに載っていた人形たちになります。


・一番最初の花の妖精たち

花びらのドレスに、香水瓶。頭上の大きな花の中にも小さな妖精がいます。なので複数形でもあります。
ここから箱庭(ドーム)に入っているものは、妖精蒐集家令嬢が蒐集したもの、になります。
令嬢が一番最初に蒐集した妖精たちになります。なぜなら『どれもが一番最初だけがほんとうのことである』と、
令嬢自身がもうわかっているからこそ、です。
この妖精たちの花は永遠に咲き続けるわけではありませんが、また季節が廻れば再び芽吹きます。
それを同じ花だと思うのが妖精たちだとしたら、同じ花ではないと思うようになってしまったのが令嬢です。
しかし花の香りは、香水瓶の中に閉じ込めることでずっとそのままかもしれません。
けれど、古い香りも新しい香りどれも同じ香りでもあるかもしれません。


・ロンズデーライト
ダイヤモンドより硬い、というイメージでこの言葉を借りました。
キラキラとなるように、軽めのアクリルパーツとたくさんのスワロフスキーを使っています。
存在の硬度、も一種の矛盾であり自分がどう思うか、というところに意味を置いています。
溶けないからこそ自分とは別のものとして残るのか。溶けるからこそ自分の中のものとして残るのか。
この絶対の硬度を持つ妖精は、目に見える確かなもの、という輪郭の一つです。


・ユーフォリア

多幸感という言葉です。
パールとアンティークレースを主体に作りました。髪の毛は真っ白です。
ロンズデーライトとは対になるような感覚で作りました。
ユーフォリアにとっては硬度の必要性は絶対ではありません。
目に見えなくても、指先で触れられなくても、じゅうぶんなのです。


・クロノスタシス

秒針が一瞬止まって見えるというような意味合いの言葉を借りました。
永遠という時間表現のために、古い時計のパーツと、ビーズなどで作りました。胸元には秒針を縫い付けてあります。
この妖精はまさに永遠を、それからこの今一瞬を、証明するためにあるのです。


・レオロジー

流動学という意味ですが、万物は流転するという元になった言葉のイメージからです。
アンティークレースのドレスや、オーガンジーの翅、小物の本などを焼いて焦がしています。
涙の粒はスワロフスキーになります。
一方通行の果てなのか、円環のような巡り巡った先なのか、焼かれてもこの妖精は残されました。
すっかり変わり果てた姿になって。(それでもいい)

・メランコリー
憂鬱な、少し悲しい感じのイメージです。小さい妖精のドールになります。
鏤めているのはスワロフスキーです。
紫にしましたが、毒を飲み干した妖精とはティンカーベルを思い出しています。
それを踏まえた上での『ただそれだけ』ということです。
けれどこの妖精は報われています。


・一番最後の妖精
樹ときらきらした鉱物など大地の一部になっていくような妖精をイメージして作りました。
一番最後にどうなるかという終わりとして、此処に辿りつきます。
だいたいの多くの者にとって残すか残されるかのどちらかであるのなら、
、、、、、、、、、、、
そうであってほしい、という気持ちが答えだったのかもしれません。
そうやって生きていくしかないのだ、生きていけるのだ、という妖精蒐集家令嬢の最後の蒐集品になります。


・もうひとつの結末
木箱入りの小さな妖精と人間の少女の人形です。
『妖精蒐集家令嬢と、その妖精』とは別のもうひとつの結末、というべきものの提示です。
なので箱庭(ドーム)の中にはいません。
この場合、目を閉じるのは人間の少女(長く生きた老婆ではなく…)、令嬢側になります。
ですが『目を閉じること』はこの妖精にとっては別れではなく、
実にある意味で妖精的な思考であり、
それはhodie mifi,cras tibi.(DMに載せていたピンク色の妖精)と非常に似ている----一方で正反対なのです。

これをもってこの物語は幕になります。

このように色々と設定した物語はありますが、
一体一体を単体で姿形だけでもいいなと思ってくだされば幸いです。
ありがとうございました。
2016.8 えみんこ